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お役立ち情報 契約書作成

第8回 契約当事者の表示方法と署名押印のルール

はじめに

契約書の作成において、「当事者の表記」や「署名・押印」の仕方は、意外と見落とされがちなポイントです。
しかし、ここを間違えると契約の当事者が誰か分からなくなる法的効力に疑問が生じるなどのトラブルにつながります。
今回は、契約書の当事者表示と署名押印の正しいルールを、紙契約・電子契約の両面から解説します。

契約当事者の「表示」の基本

契約書において「当事者」とは、契約を締結する責任を負う人または法人のことです。
この表示が曖昧だと、後に「誰と契約したのか」が問題になるおそれがあります。

例:法人の場合

株式会社〇〇(以下「甲」という。)
〒190-0011 東京都立川市〇〇町1丁目1番1号
代表取締役 山田太郎

ポイント:

  • 法人名は登記簿上の正式名称を使う
  • 所在地も登記住所を正確に記載
  • 「代表者名」も明記し、代表印を押印する

例:個人事業主の場合

山田太郎(以下「甲」という。)
東京都立川市〇〇町1丁目1番1号
屋号「立川デザインオフィス」

ポイント:

  • 個人名を主体として表示(屋号だけでは法的効力が不明確)
  • 屋号を併記する場合は括弧などで整理

契約当事者の区別と略称

契約書では、当事者を「甲」「乙」「丙」と略すのが一般的です。

例文:

株式会社A(以下「甲」という。)と、株式会社B(以下「乙」という。)は、〇〇契約を締結する。

この略称を使うことで、本文の条項を簡潔に記載できます。
略称を定義するのは必ず「前文」で行いましょう(第7回参照)。

署名と押印のルール

契約書の最後には、当事者双方の署名・押印が必要です。
これは「この内容に同意した」という意思を明確に示す行為です。

法人の場合

  • 代表取締役が署名し、会社実印(登記印)を押すのが原則
  • 担当者が署名する場合は、委任状や決裁書など裏付け書類を用意

個人の場合

  • 自筆署名+認印でも有効(ただし実印の方が証拠力が高い)

押印の注意点

  • 押印は黒または朱のインクが一般的
  • 印影がかすれていると「押印が無効」と判断される場合も

電子契約との違い

近年は「クラウドサイン」などの電子契約サービスが普及しています。
紙の契約書との違いを理解しておくことが大切です。

比較項目紙契約電子契約
署名方法手書き署名+押印電子署名(電子証明書を利用)
証拠力印影・筆跡電子署名+タイムスタンプ
保管方法紙原本クラウド上のデータ
印紙税必要(原則)原則不要

ポイント:

  • 電子契約でも「当事者の特定」が最重要
  • メールアドレスだけで署名するサービスは証拠力が弱い場合も
  • 行政機関との契約では、まだ紙契約を求める場合がある

行政書士からのアドバイス

契約の信用性は、署名と押印の正確さで決まるといっても過言ではありません。

  • 法人名や所在地は登記どおりに
  • 代表者の氏名は略さず正式名称で
  • 電子契約を使う場合は、信頼性の高い認証方式を選ぶ

電子契約を導入する際は、相手方の理解を得てから進めるのが安全です。

まとめ

・契約当事者の表記は「正式名称+住所+代表者名」が原則

・署名・押印は契約の有効性を支える重要な要素

・電子契約でも当事者の特定と認証の信頼性がポイント

次回予告

契約書作成に関するこれまでの記事はこちらをご覧ください。

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次回は 「契約期間と更新条項の注意点|自動更新・更新拒絶の仕組み」 をテーマに、「いつまで契約が続くのか」「更新時に注意すべき点」について詳しく解説します。