はじめに
契約書の作成において、「当事者の表記」や「署名・押印」の仕方は、意外と見落とされがちなポイントです。
しかし、ここを間違えると契約の当事者が誰か分からなくなる、法的効力に疑問が生じるなどのトラブルにつながります。
今回は、契約書の当事者表示と署名押印の正しいルールを、紙契約・電子契約の両面から解説します。
契約当事者の「表示」の基本
契約書において「当事者」とは、契約を締結する責任を負う人または法人のことです。
この表示が曖昧だと、後に「誰と契約したのか」が問題になるおそれがあります。
例:法人の場合
株式会社〇〇(以下「甲」という。)
〒190-0011 東京都立川市〇〇町1丁目1番1号
代表取締役 山田太郎
ポイント:
- 法人名は登記簿上の正式名称を使う
- 所在地も登記住所を正確に記載
- 「代表者名」も明記し、代表印を押印する
例:個人事業主の場合
山田太郎(以下「甲」という。)
東京都立川市〇〇町1丁目1番1号
屋号「立川デザインオフィス」
ポイント:
- 個人名を主体として表示(屋号だけでは法的効力が不明確)
- 屋号を併記する場合は括弧などで整理
契約当事者の区別と略称
契約書では、当事者を「甲」「乙」「丙」と略すのが一般的です。
例文:
株式会社A(以下「甲」という。)と、株式会社B(以下「乙」という。)は、〇〇契約を締結する。
この略称を使うことで、本文の条項を簡潔に記載できます。
略称を定義するのは必ず「前文」で行いましょう(第7回参照)。
署名と押印のルール
契約書の最後には、当事者双方の署名・押印が必要です。
これは「この内容に同意した」という意思を明確に示す行為です。
法人の場合
- 代表取締役が署名し、会社実印(登記印)を押すのが原則
- 担当者が署名する場合は、委任状や決裁書など裏付け書類を用意
個人の場合
- 自筆署名+認印でも有効(ただし実印の方が証拠力が高い)
押印の注意点
- 押印は黒または朱のインクが一般的
- 印影がかすれていると「押印が無効」と判断される場合も
電子契約との違い
近年は「クラウドサイン」などの電子契約サービスが普及しています。
紙の契約書との違いを理解しておくことが大切です。
| 比較項目 | 紙契約 | 電子契約 |
|---|---|---|
| 署名方法 | 手書き署名+押印 | 電子署名(電子証明書を利用) |
| 証拠力 | 印影・筆跡 | 電子署名+タイムスタンプ |
| 保管方法 | 紙原本 | クラウド上のデータ |
| 印紙税 | 必要(原則) | 原則不要 |
ポイント:
- 電子契約でも「当事者の特定」が最重要
- メールアドレスだけで署名するサービスは証拠力が弱い場合も
- 行政機関との契約では、まだ紙契約を求める場合がある
行政書士からのアドバイス
契約の信用性は、署名と押印の正確さで決まるといっても過言ではありません。
- 法人名や所在地は登記どおりに
- 代表者の氏名は略さず正式名称で
- 電子契約を使う場合は、信頼性の高い認証方式を選ぶ
電子契約を導入する際は、相手方の理解を得てから進めるのが安全です。
まとめ
・契約当事者の表記は「正式名称+住所+代表者名」が原則
・署名・押印は契約の有効性を支える重要な要素
・電子契約でも当事者の特定と認証の信頼性がポイント
次回予告
契約書作成に関するこれまでの記事はこちらをご覧ください。
契約書に関するご相談はこちらからどうぞ。
次回は 「契約期間と更新条項の注意点|自動更新・更新拒絶の仕組み」 をテーマに、「いつまで契約が続くのか」「更新時に注意すべき点」について詳しく解説します。
